大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和40年(ラ)447号 決定

本件抗告の理由は、別紙に引用するとおりである。これに対する当裁判所の判断を以下に説明する。

相手方(原告。以下単に「原告」という。)がその存在を主張する契約上の債権が商事性を有することは、その契約の当事者であり、かつ本件訴訟の当事者である双方がともに株式会社であることから明らかである。そうしてこの訴の特別裁判籍について民事訴訟法第五条および商法第五一六条の各規定の適用せらるべきことも、抗告人の主張するとおりである。ところで、当事者間の金型売買契約が抗告人と、東京都にある原告東京営業所との間に結ばれ、その義務履行地が東京都であることは、抗告人の主張するところであるが、この一事によつて、直ちに、抗告人もいうとおり新たな契約である解除契約による前渡金返還債務の履行地もまた同じ東京都であるとの抗告人の所論は、以下に示すとおり理由がない。

すなわち、原告は、「金型売買契約は、昭和四〇年三月一二日原告会社本社営業所において、被告会社代表取締役土屋三郎との間において、被告会社の債務不履行を理由として合意解除され、既に授受された売買代金を被告会社から原告会社へ返還する旨約した。」旨を主張するところ、抗告人の昭和四〇年三月一二日付原告会社宛の書面(甲第一号証)によれば、抗告人は、売買の合意解除を承認し、前渡金を返還すべく、但しその返済方法等につき資金繰り上無理のないことを期待し、その明細打ち合せのため原告の長野本社へ赴くべき旨を申し越していることが認められるのであつて、このことから原告主張の新契約(解除契約)は、原告会社の東京営業所においてなした取引ではないことが窺われる。これに反し、抗告人は、前説明のとおり、解除前の契約の履行地が東京都である旨を主張するに止まり、進んで新契約の履行地につき別段の定めがなされたことについては、何らの主張立証をしないし、また新契約が原告の長野営業所において取引されたものでないことについては、何らの反証をも提出しない。してみれば、合意解除前の売買契約が原告の東京営業所においてなした取引であつたからとて、新契約につき、履行地を東京都であると解しなければならぬとする理由がなく、原告の主張する債務の履行地は、原告の主たる営業所の存する肩書地においてなされるべきものといわねばならない。

以上の次第であるから、原告主張の債務の義務履行地が原告の肩書地でないことを理由として、その債務の履行を求める訴訟の移送を求める抗告人の申立は、失当である。この申立を却下した原決定は、結局相当であるから、当裁判所は、主文のとおり決定する。

(中西 外山 秦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!